詩人になりたかった僕たちへ

詩とは、こころの涙なのでしょうか。

しんがり

僕がしんがりをつとめよう
キミがさびしくないように
小さな炎灯してさ
キミがこわがらないように

この先何があるかなんてね
分からないね、いつもそうだね
良いも悪いも判らなくなるよ
ただ涙は流れるし
ただこの胸は苦しみで満ちて

こわがってるのは僕なんだ
さびしいのも、悲しいのも
悔しいのも怒ってるのも
愛してるのも愛されたいの

だから僕がしんがりをつとめよう
さびしんがりの僕だから



松井絆

a sad night

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哀しみが私を作り上げた?
そう感じることに
もう うんざりしているけれど

悲しみが私を創り上げた
歓びではなく?
私はどこにいる

償い切れないという幻想
断ち切れない錆びた鎖の束
溺れて沈んでいっても
その先も その先も
深海はまだ深く
深海は続いてゆくようだ

切り刻みたい衝動を抑えても
形を変えてそれは発現を繰り返す

幾夜も脅えている
薄暗い汚れた空の鈍い星の光
それはまるでただの空洞のような
破れた緞帳の傷のようじゃないか

かなしみがわたしをつくりあげた?

抜け出したい




松井絆

空き地の音(ね)

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広い 空き地の真ん中で
とてもよい音のする楽器を
吹いている人がいる

空に抜けるように
風に乗るように
その楽器の音が
街に届いてゆく

帽子を被ったその人は
広い空き地の真ん中で
ただ一人
大きな空の下で
たった一人で音を奏でる

その背中は小さくても
僕にはその人が見えている

街ゆく人は誰も
気付いてはいないかのように
歩をすすめている

風そのものが音楽になったように
爽やかな夕景のはじまりに溶ける

ゆっくりと 雲は流れる

僕はあの人が
天使ではないかしらと
本気で考える




松井絆

私という船

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大海を静かにゆく
私という船が
僅かな波すら立てずに
聞こえるのは天体の音だけ

比較対象もなくて
進んでいるのか

景色は 動いているか

しかし

私の心は知っている

スピードでもない
波紋でもない

見えているものが
道標ではなく
いま感じている静かな鼓動が
船を 動かしていること
船は 進んでいるということを




松井絆

僕は

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だから僕は詩人になろう
枯渇してしまった孤独を砂漠で潤そう
どこまでも追ってくる嵐に焼かれよう

いつかこのすべてをタイムカプセルにして埋めよう
だれも知らない場所に沈めて だれの目にも触れずに消える
少し卑屈だろうか

引き裂いてしまいたいのだ
すでに引き裂かれたものを表現しなくては
僕の存在が まるで嘘みたいじゃないか

大海を身一つで漂うことと
海水が尽きてしまったかつての海に立ち尽くすことと
どちらを選ぶかだって?

選択肢はどこへ消えた
選択肢はどこへ消えた

霧もないのに景色は判然としない
見えているものすべて動きを失ったようだ
色があるのに色がない

僕は一人風化してしまうかな
だから僕は詩人になろう
青いと思える空を探して

 

 

松井絆

かなしみとしあわせと

f:id:kizuna_m:20210425090506j:plain「幸せとは」っていう主題は
人によってちがうから
それに対する返答は
なんだっていいのだけれど

どうして 自分にとってのそれが
わからなくなるんだろうねぇ
ものすごく ふしぎだよ





松井絆