詩人になりたかった僕たちへ

詩とは、こころの涙なのでしょうか。

2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

十日目の月

あの黄金を湛えた 十日目の月に 還りたい やさしく光を吸いこんで すべて判つているといつた様子で ぽつかりとした 墨色のよるに在る 散らかした綿飴にも似たうす曇と いつしよに在る 松井絆

祖母へ

ばあちゃん、 ばあちゃん わたしもね だいぶ白髪が出てきたのばあちゃん、 ばあちゃん わたしもね たいせつな恋をもってるのばあちゃん、 貴女は綺麗な人ね わたしも あなたに似られるかしら 松井絆

一生で足りるだろうか 友を知るために一生で足りるだろうか 人を理解するために一生で足りるだろうか この心に応えるために一生で足りるだろうか きみと共に過ごすために 松井絆

衝動

広い海 うつくしい海の 真ん中で 泳ぐ僕 その本当の広さを知らなくとも あまりにじゆうだということを 思い知る時がある広い海 うつくしい海の 真ん中は だれにも 見つからないで いられるけれどきっと僕はあの反射(ひか)る船へと 手を振ってみたい 衝動に…

信ずること

白銀の豊かなる衣を纏うた 言祝ぎの者たち 天青石の国からきた 穢れなき光のかたまりよ我らを見守りあたためる 望みの声を待つ者よ その白銀に抱かれて 愛の毛布に巻かるるが如く土を歩きし我らをも そっと 微笑の癒しで満ち引き給う 信ずることを 道標にして…

向日葵

ある男がこう言う 「好きな花は、向日葵です。」またある男が言った 「素敵ですね。私は一日中鯵の泳ぐ様を眺めていたい。」別の誰かが言う 「いいですね。私はキリンの模様が美しく思います。」そしてまた別の誰かが言うだろう 「そうなのですね。私には大…

祭り囃子

紐靴のつま先 蝉の声と 少しの動揺 落ちてくるような空が 息苦しいようだ水辺に舞って反射する 叫びとも 歓喜とも知らぬ 幼子たちの喧騒夜を割るように登り 闇に轟く太鼓のように 大輪の火薬ははじけて 我が胸へと焼き付けた遠い暮のお囃子よ 賑やかな煩雑さ…

同じ木の下で

違う本を読み 違う服を着て 違う好みと 歌を持ち同じ火で食事をあたため 同じ月星に焦がれ 同じ木の下で 微笑う違う絵を描いて 同じ壁に飾れるような あなたが 愛おしい 松井絆

つよがり

つまらない嘘つく 唇に ひとつの嘘も 浮かばない そろそろ愛想尽かされちゃうの ありったけ 覚悟だの つよがってきみに涙は見せないじゃん 夕陽が横顔に色を塗るよ おどろいた顔も多分不出来で 何でもないみたいに見えてるのあの時のチャンス なんで なんで …

あなた

行き先もつげない じゆう気儘よ 貴女のこと 信じてる 信じてるためいきなんて つきたくないのに 会えないと なぜかしら トーンダウン トーンダウン大きなゆめに 駆け回り 回り 捕まえられない ならば私も ゴーラウンドよいつか 二人 ソファにならんで あたた…

モールス

黙ったまんま 心とざして 異星人からのモールス信号 待っている その間少しだけ 近づいても 気づかれないなら 逃(のが)さないよ この好機窓のそばまでやって来て 点滅する様(よ)に 語りかけるよ 異星人からのモールス信号 一つだけでも 受け取ってすくい…

目印

なにを 成功と呼び なにを 失敗とするのかどこまでが道程で どこが目的地なのか入り口も 出口も よくわかる目印を 付けてはいないようだ 松井絆

窓硝子の向こう 一匹の蛾がやって来て 頻りに羽をばたつかせている 麦酒を 一口含む 苦みのある芳香が 鼻腔を撫でる 松井絆

抑制と暴走と

僕にとって 僕が コントロール出来る 機械だったなら こんなにもややこしく ならずに済んだろう僕にとって 僕が コントロール出来る 機械だったなら 何度も降る雨で 毀れていたろうか僕にとって 僕が コントロール出来る 機械だったなら、と 思わずには 居(…

海の深くに

深海に音楽はあるのか船底の影も届かない 遠い もう一つの大地に 深海に歌はなくのかゆるされた生命の他には 立ち入りを禁じた もう一つの夜に僅かにも 光りは 色は この響きは胸を震わすことを 叶えるのだろうか 松井絆

ばら色の朿

あの件は 薔薇のトゲ うっかりと 指先にさわる わすれたい 願わくば わすれられたい だけなのにあの件は 薔薇のトゲ うつくしく 引っ掛かる どうしても 聞けない どうしても 言えない だけなのにあの件は 薔薇のトゲ たまに胸を引っ掛けるよ 松井絆

緩やかに

わたくしは、ゆっくりと 生きとうございます。ゆっくりと じっくりと 染み入るように 味わいながらこう見えて これまでは たいそう急ぐ気もちで 足掻いておりました。 急(せ)いて 急いても 早く着くでも ありますまいに。わたくしは、この通り ゆっくりと …

ナンバーX

魔法のように絡まって 解けない 問題 そろそろ腕試し瞬時に巡る シナプスの乱舞 幾億通りの恋を 試しに召し上がれ視線だけで 難問に挑むよ 解けぬときこそ 最高の快感 傲慢になる度 心試される頭脳戦なら 任せておくれよ 考えるしか脳がないのさ 魂の試運転 …

やさしくなりたい未熟もの

なりたい人に 今日もなれない じぶんが いる 例えば明日 なれたとしても 明後日はまた 自信がないあぁ思うような立派な人に こころ穏やかに 朗らかに あぁなりたいよ なれないよ なる日もたまに あるけれど (まだまだ だ)あぁ思うようなやさしい人に あぁ…

ホッパー

くり抜きたる時の真ん中へ ぽんと 降り立ってみたい窓枠の形に差し込んだ 止まったままの 西陽のそばへゆめうつつの中と思しき 円やかなる いくつもの色いろよあの街灯のならぶ ショウウィンドウの 寂しげな硝子に 土埃のはりついてくり抜きたる時の真ん中へ…

綺麗なよる

綺麗なよる 切なさの降る カーテン越しに 街灯と月がまざって 青いひかりが浮かんでいるよ遠い雨 人の話し声 たまに行く車の走り音(おと)手を伸ばすと きみの声に 届きそうな気がするけれど綺麗なよる ひとりきり モノトーン さみしくはない 切ないだけ き…

鮮度

新鮮な内に 召し上がれ 新鮮な内に 取り出して 新鮮な内に 調理して 新鮮な内に 届けよう色褪せる前に 色褪せる前に 色褪せる前に 松井絆

荒れた地に飛んできた ちいさな種があった ただ太陽ばかりが つよく照りつけるような地だ とっくに養分は枯れ 雨が降るのは いつになるのか 分からない種には何もかもが初めてで そんな境遇を くるしいとは思わなかったやがて 雨が降った どれくらい振りの雨…

おおきなおおきな歪な円を 一周、してようやく わかることが ある 松井絆

現実

なんとも胸のなかが わたわたがたごたと してしまうこと有りこういった時はきわめてやっかいなのだが 鎮めるような術が ないわけでも無い のであるまずは、 わたわたがたごたとする 様子を認めるそうしたならば次には、 じぶんの望むとおりの結果を 書き留め…

あさ

あたらしい朝が来ることはあるまるでもうあきらめ切って あれが最後の夜だ、と 疑えなくっても。かってに決めた最後と つごうのいいような朝が 滑けいに思えてにがわらいをしても、 また笑えたじぶんの 肩を、ちいさくたたいてやりたくなる。こころは自由だ …

共鳴

はりつめし糸の解(ほど)けるが如く清涼なるわき水の 溢るるが如くこの心(むね)いっぱいに 真白(ましろ)な銀河の 散り広がるが如く あなたの ことのは われに 懸想さす 松井絆

光かり(ひかり)

かなしい言葉をたくさん浴びた むねの裂ける様(よ)な 思いがしたここに在ることは変えられず 地べたを這う様(よ)に いきてきただからわたしは できるだけ やさしい言葉で伝えたい 誰かのこころ 裂くような 刃も融かす 光(ひ)かりとなりたい 松井絆

染み

染みや、よごれや そういったものを いとしく思ふ刻まれてきたもの いまは褪せたもの 形や 色を かえたもの だってもしここに無けりゃあ そうは成って いないのだから染みやよごれを いとしく思ふ 松井絆

明朝

明朝 七時 僕は旅に出るだろう陽(ひ)も昇らぬ内に起き出して そっと身なりを調(ととの)えて明朝 七時 僕は旅に 出るだろう一かけのチョコレイト 鞄に詰めて唸り声あげる 風の中 重たい荷物を身に着けて憧憬を胸に往くのだろう 松井絆